光景ワレズANNEX

赤いソファを知ってるか 青いソファを知ってるか

ジジイが万引きするところを完全に目撃したときのこと

ある会社を休んだ平日のこと。朝にいつも通り子供を保育園に送って自宅に帰る途中、コンビニに寄った。特に明確な目的は無かったが、飲み物と何かスイーツ程度を……と店の一番奥の飲料コーナーに向かう途中、パンの棚の前にジジイがいた。ジジイは70代くらいといった容姿で、サングラスと帽子をしていて競艇場などのギャンブル場にいそうなイメージの顔立ちだ。足はあまり良くないらしく、杖をついていた。持ち物はどこかの書店か文具屋あたりで貰えそうなビニール袋のみで、おそらく暫くバッグ代わりに使っているのだろうか、かなり使い込んだ感じであった。

 

で、そのジジイはぼくの目の前で、棚からパンを数点、持参しているでそのビニール袋にガシガシと入れていた。もう、そのムーブの自信満々っぷりが逆に目撃した側が「ん?なんで自分は今違和感を抱いている?」と自問自答してしまうくらい堂々としていた。

しかしそれは一瞬の話で、やっぱり普通に万引きじゃねえか、と見た瞬間確信した。あくまでショッピングバッグ感覚でこの後レジにはいお願いしま〜すと持って行く展開はまずあり得ない。ぼくも思わずパンの棚に立ち止まってジジイのすぐ横に立ち、その袋の中をじっと見つめた。ソーセージだかの惣菜パンが見えた。それは敢えてジジイに「おい!おれは見たぞ」のアピールをするためだ。

 

テレビの「警察24時」シリーズ等で得た知識だが、万引きはバッグに入れた瞬間ではなく店を出た瞬間に成立するらしい。それも変な話であってそれならば海外のスーパーのように私物バッグ持ち込み禁止にしなければ辻褄が合わないのだがそこは治安大国ニッポン!素晴らしい!和風総本家!ってな感じで現状の店側に不利な運用が当たり前になっている。とにかく、この時点ではジジイの万引きは確定していない。このまま敢えて気付かなかったかのように振る舞い、品物の代金を払わずに店を出たところでとっ捕まえるのが一番正しいのかもしれない。でもその発想はぼくにはあまりなくて、盗るのを辞めてくれという考えだった。

それはジジイ本人がマジの犯罪者になることをギリギリのところで止めるというよりは、単純にぼく自信が面倒に巻き込まれるのはゴメンという気持ちが大きかった。未遂で終わらせることでまた他で万引きをやるかもしれないし、この店でまた行うかもしれない。そこにぼくの責任がついて回るのかまでは流石に勘弁してほしいが、しかしこの場この瞬間については完璧に、完全に、1000%見てしまった責任がある。流石に「うーんでもちゃんと見てないから盗ったとも盗ってないとも言い切れないなぁ……」的に見て見ぬ振りすら許されないほど見てしまった。ジジイはガッツリと惣菜パンを2、3個パクっていたのだ。

ぼくはどうしようか悩んだが、まずはジジイにぴったりとマンツーマンディフェンスをしかけた。ジジイはこちらに見られたのは流石にわかったようなので、まずこちらの視線を気にして、興味の無い雑誌を見たり、化粧品を見たり時間稼ぎしていた。こちらもまたジジイから一定の間合いを取りながら出て行くかどうかを見ていた。

ただしこれをずっと続ける義理もないしこちらも都合があるので、店員が空いたときに「あのジジイ万引きしてますよ」と伝えた。店員はめんどくさそうに「マジっすか……」と答えた。

その後ジジイからは目を離して自分の買い物を選んでレジに並ぶと、ジジイが待ち構えていた。

「オイおまえ!オレが万引きしたってのか!オイ!」とジジイはキレていた。ぼくは

「だってさっきパンその袋に入れたじゃないですか」と答えた。ジジイはぼくが店員と話しているのを見てパンを店のどこかに隠したようで、店員もまた店を出る前にジジイに声をかけたらしかった。

「だったらこの袋の中身を見てみろ!ドウダッ!」とジジイは私物しか入ってない袋をこちらに見せつけた。

「さっきどこかに隠したんでしょう、あの新聞のあたりか雑誌のあたりか」と言うと

「何だとお前!ブッとばすぞ!やるかこの野郎!!」と普通に図星のリアクションをしてきた。もう少しコナン君の犯人くらいは否定してほしかった。そもそも足が悪いジジイなので流石に暴力になっても負けない見通しはあったが、当然大人なのでそんなことはしない。

「殴ったら警察ですよ、警察…」と言いながらお会計を済ませ、後は「馬鹿野郎!この野郎!」などと恫喝するジジイを放置して店を去った。その後どうなったかは知らない。

 

これだけの話なのだが、世の中、ゲーム理論的に自分本位に考えると「見て見ぬ振り」「我関せず」が最もトクな場合が少なくない。このジジイの万引きの場合も、ぼくが全く気付かなければ、ジジイが万引きを成功させ店が損害を被るか、店員が見つけてとっ捕まえジジイがポリスメンと仲良くする結末になるかということになるが、ぼく個人としては得とか損とかは一切無い。この件に関与したことでTポイントが貰えるわけでもない。

あるいはジジイだって本当は盗みなどしたくてしているわけでもなく、少ない年金で明日食べるのも大変な状況であったり、あるいはコンビニだってどうせ廃棄まで売れなかったら捨てるだけのものが2、3点無くなろうが……という観点でむしろ余計なお世話だったかもしれない。その上、ぼくとしては余計なトラブルと少なからずジジイに対峙するリスクと不愉快な感情を取っておきながら何のメリットもないという、完全に損でしかない行動だ。クソバカツイッタラーの炎上ツイートをいちいち追うくらい不毛だ。せめてエロい女が困っているところを助けて凄いことになるとか、超金持ちの女が困っているところを助けて凄いことになるとか、そういう展開は1ミリもない。そういう意味でもやっぱり本来自分としては「見て見ぬ振り」が最善策だったはずなのだ。

それでも人間はときに理不尽、非論理的、損得抜きな行動に出てしまう。あんまりそういうのはやめておきたいのが正直なところなのだけど、自分はそこまで理性的でもないらしいので、せめてブログのネタになりましたチャンチャンということにしてちょっとはリターンがあったということにおさめておきたい。

 

(おわり)

 

余談だけど、盗撮野郎を以前目撃して対処(というほどでもないけど)したことがあるのでそのときのこともまた電車トラブルがどうの的論争が盛り上がったときにでも書きます。