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映画『100日間生きたワニ』(100ワニ)の感想【一部ネタバレあり】

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※この記事は映画のネタバレがありますが、途中まではネタバレなしでご覧いただけます。ネタバレに入っていくところには注釈を入れます。

 

はじめに

『100日後に死ぬワニ』を原作とした映画『100日間生きたワニ』を公開初日に見てきたので感想を書きます。

ここでは「映画作品としての感想」もできるだけ書いてみるけど、その前に「"映画体験"としての感想」、つまり(このことばの定義も様々だと思うけど)仕事を無理やり切り上げました、お金払いました、映画館まで足を運びました、というところもひっくるめての感想も述べたいと思う。真に作品をフラットに批評できる人ならあくまで作品のみを評価するのだろうけど、私は俗物の貧乏人なので「配信ならいいけど1900円取るなら全然評価変わるよ」というタイプなのです。すまんね。なので正しき映画評論ではないかもしれないけど、個人の感想なのでご了承ください。なお今回は夕方割引で1300円で見たのでその意味では600円分甘い感想になっているかもしれない。

 

そもそもお前は100ワニどう思ってるのよ?

私は100ワニは基本的に肯定派…というと変だけど、普通にほぼ初日からリアルタイムで読んでいた。100日目は19時にちゃんとスマホを開いて待っていて遅れてるじゃないかとか思っていた。それくらいちゃんと追いかけていた。単行本も電子版だけど買った。炎上そのものについては、自分もあまりに銭コァの要求が拙速すぎるだろとは思ったので燃えるべくして燃えたなという感想。四十九日だと長すぎだけど4.9日くらいは待っても良かったと思う。でも是非で言ったら確実に是の側。電通ガーとかいまだに言ってるのはバカだと思っているし、きくちさんがヒドいのは訴訟とか言ってるのも応援する立場。一方で、コンテンツの力を越えたキャンペーンやグッズの広げ方をして大量に売れ残ってるのもまたバカだなと思っている。簡単に言えばきくちさんと組んでる人らがまだまだネットがヘタなんですねという捉え方をしている。あんな発明みたいな偉大な作品にケチをつけてしまったのは本当に勿体ないと思っている。近所の文具屋で見かけた売れ残りのワニのシールとかはイジったりしたことがあるのでアンチに思われてるかもしれないがこれはただの性格です。

 

 

自分がきっかけで変なイタズラが生まれてしまった自責の念

数日前、100ワニ映画をコキ下ろした感想をTwitterで見かけた。まだ公開していなかったのでは?っていうかそろそろ公開?と思って劇場の予約サイトを見てみたら……というのが以下のツイート。これが思いもよらずバズった。

 

 

この時間には結局見に行けず(この予約取ってた人の感想も聞きたい…!)同じ日の後の時間で見たのだけど、上記ツイートのリプライを見ていただくとわかるようにKINEZOの予約サイトで遊び始める奴が出てきた。そして最終的に以下のようにバルト9自体のコメントが出るまでに発展した。なおそもそもバルト9の予約を見たのは単純に私の行きつけの映画館だからである。

 

nlab.itmedia.co.jp

上記のツリーなど見てもらえばわかるが、私はイタズラをしていないし推奨もしていないしイタズラにウケてもいないが、そういうバカがバカなことをする気付きを与えきっかけになってしまったことは間違いないだろう。そこは責任を感じている。

 

そのみそぎというかけじめというか…も変なのだけど、そもそも(期待はせずとも)見たいとは思っていたので、これはもう本当に興行収入にわずかではあるが貢献するしかないと思い、仕事を無理矢理終わらせて定時終了し、そこから家を出て映画館に向かったのである。

なお、自分が見た回の埋まり具合はこんな感じ。最終的にはもう少し人が多かったと思う。

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”映画体験”としての感想

ここで私が言う映画体験とは、先程書いたように仕事がんばって終わらせて急いで映画館にダッシュしつつ予約を入れつつ1300円を払いました、1時間がっつり拘束されました、といったところまでコミコミの話である。その意味では、この作品は劇場でわざわざ見ることに対して到底バランスしないレベルだし、大富豪でも無い限りはお金が勿体なさすぎるし、大富豪なら貴重な時間を大切にしていただきたいので絶対にオススメしない。更に言えばこの作品を見るということは映画館で横で上映している他の多数の作品を押しのけてでも見るぞ!ということと同義である。私だったらこれなら『閃光のハサウェイ』をもう一回見たほうが良かったな〜と思っている。

ただ、この後ネタバレありの具体的な感想を書くが、クソ作品だとか紙芝居だとか、そこまで言う気は無いどころか、結構褒められるポイントがある気がする。なのでたとえばプライムビデオやNetflixなどのネット配信で今後見られる方からしたら「言われてるほどダメじゃなくね?」みたいに評価されるかもしれないし、YouTubeのリアルタイムプレミアム公開などしたらかなり盛り上がるかもしれない。「そういう枠」であれば充分鑑賞に足る作品なのだが、いかんせん大画面の映画館で、きっちり安くない金額を課金し、10分くらいある他の映画の強制宣伝視聴タイムを我慢して、で見るとなると意義が薄れる。例えばセイキンTVはやっぱりスマホかPCかせいぜいYouTube対応TVが限界であれを映画館で見たら狂ってるだろうなと想像がつくでしょう?

あと逆に言えば最近4K対応TVを買ったのですけど、それで4K放送のアンパンマンを見ても「完全に4Kの意味ね〜」と感じたのだが、まあそれと同じ話で、映画館というハコに対して『100ワニ』は悪いけど時間も内容も「足らなすぎる」わけで、これはあくまで劇場は単なる課金装置、劇場の無駄遣いだなと感じた。でももしプライムビデオに来たら多分うちの子ども(小2)も好きなタイプの作品だと思うのでぜひ見せたいと思っている。それに漫画が読めない小さい子でもアニメになると理解ができるのでその点は良いし、なるべく細かい心の機微みたいなものを表現しようとしていたのは理解するので、そういうものは子どもでも何か感じるものがあるかもしれない。

劇場のメリットというか唯一感心したというか将来のプライムビデオ配信などで聞き取れるかが心配になったのが、なぜかワニたちが裸足で歩くヒタヒタヒタ…という音が妙にリアリティがあったことだ。ここに無駄にコダワリを感じた。というかこいつら裸足だったんだ、と原作では気付かずに映画で初めて気付いたくらいだ(ただしセンパイワニは靴を履いてたりする)。この音が伝わるかな〜……。

 

↓ここからは作品内容のネタバレです↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作品としての感想(ネタバレあり)

作品そのものの評価としてはネットの感想等で「虚無」「無」などと言われていた。私の感想を一言で申し上げると「普通」である。普通。子どもが何かを「楽しくもつまらなくもなかったとき」に評価することば「普通」。たとえば日曜夜のサザエさんを劇場で見たのと同じような感覚かもしれない(サザエさんが劇場でいつものやつを普通にやったらそれはそれで新鮮で面白そうだけど……)。

 

皆も体験したことがあるだろう、良い映画を見た後の心のワクワクドキドキ、感動、嬉しさ楽しさ、「見て良かった〜〜〜!!!」といった心の起伏、興奮!!映画って本当にイイモノですね!と心の中の水野晴郎がツヤツヤしてハイテンションになってるあの感じ!

あれがですね、皆・無! 皆無です。なぜなら「普通」だから。

 

劇場を立った他のお客さんもエンドロール、そしてエンドロール後に流れる謎のバイク音(多分「ワニがいなくなった後でも、みんな未来に向いて走る」的な暗喩なのだろう)が終わって劇場が明るくなったときの、宇宙空間のような無、無、無……数十人いる空間でこんなにシーーーーンとすることある???ってくらいシーンとしていた。グループで来ている人たちだって何か一言感想を交換し始めるんじゃないのか?なぜみんな下むいて黙ってるんだ???というくらいシーンとしていた。これはクソ映画が終わった後にありがちなシーンで、自分が体験した映画館のある中で一番近いのは、仮面ライダー鎧武が急にサッカーをし始める映画の後の空気に近かったですね。

ただ、たとえば『キッチン戦隊クックルン』を見て「虚無だ!」「クソだ!」と叫ぶ人がいないように、ほんとお茶の間で気軽に見れるフォーマットで見せてくれたら全然違うと思う。そういう意味では駄作でも怪作でもなく、「普通」なんだろうと私は思う。サメ映画とかデビルマンとかと比べるのは失礼。そういうものではないし、ドラクエユアストーリーのように「この監督狂ってるな…」と怒りすら覚えるものでもない。超良作だったり超駄作に振っていればまた話題性があったのかもしれないが、「普通」というところがまた微妙過ぎる作品である。以下幾つかのポイントについて具体的に書くが、まあ全体的に「映画館に観に行くのはもったいない」「けど、まあ作品として見れないものではない」という二本柱に沿って書いています。

 

ワニは二度死ぬ

全体の構成としては、いきなり花見の日から始まるので開始2分でワニが死ぬ。まあそれはいい。いいんだけど、その次に100日前からの話(映画では12月〜3月と月単位の話)に切り替わり、その追憶から花見の日まで追いつくと、またネズミの「よくね?」のところまで繰り返すという構成で、実質ワニは二度死んでいる(2回目はそこで切られているので厳密には2回目の死は端折っているが、流れ的にはもう一回死んでいるに等しい)。そして100日後パートに行く……という流れだが、ここは完全に使いまわし、タイムリープもの的な演出で未来が変わるのか?と思ったら別に変わらないし、あるいは編集ミス? とすらちょっと疑ってしまったくらいだ。完全にまったく同じ流れの繰り返しは、後述しているけど手抜きか時間稼ぎにしか感じられない。

 

ワニは死ぬとわかっている観客

とはいえ漫画をTwitterで追っていたときもそうだが、「このワニは死ぬんだなと知りながら見る構図」それ自体がある種の発明でありこの作品の肝、基本的にこの映画でワニを初めて見た人も開始2分でワニが死んでるので同じように「このワニは死ぬんだなと知りながら見る」ことになる。その上で来年の話をしたり夏の話をしたり、あるいは冗談で死ぬみたいなこと言ったりするとグサリとくる、というのもTwitterリアルタイマーたちの感覚と同じだ。ここは100ワニの肝なのでしっかり守っていてくれて良かったし、原作未見の人を置いていかないという配慮に感じた。

 

余韻・余白の美

原作でもそうだったが、敢えて描かない、敢えて語らせない、という部分を意識している箇所も多々感じられた。後半の100日後パートも、最後にネズミが一度泣くだけでそれ以外基本的にワニの友だちたちは泣かない。ワニの両親も泣かない。100日経っているのでもうさんざん泣いた後、泣くフェーズはもう過ぎているのかもしれない。一方で虚脱というか、まだ前を向けない、仲間が集ったら思い出してしまう……といった雰囲気をしっかり意識しているというのは強く感じられた。センパイがワニと見に行く約束をしていた映画をひとりで見に行き、誰も座っていない隣の座席を眺めるシーンがあり、でもここでセンパイはあからさまに泣きそうになるとかもしないというのはとてもグっとくる箇所だ。こういうのを子どもに見せたいね。

 

声優が良かった

有名な俳優や声優たちが声をあてているが、自分としては皆ハマっていてよかったと思う。センパイの声優が特に良かったかな。映画オリジナルのカエルをやった山田裕貴氏も、自分はゴーカイブルーの演技しか知らないのであんな喋り方ができるのかとびっくりした。やっぱりプロはすごいね。

 

再構成はなかなか巧い

帰ってきてから原作をもう一度読み返したが、全体としてうまく再構成していると感じた。原作を改めて通して読むとつながりがおかしかったり完全に(映画化に際しては)無駄な回などあるが、「センパイがクリスマスケーキを売っているときに、ピロピロ技を小さい子に披露してその後ヒヨコが道に飛び出すのをブロックするワニを見かけキュンとする」など、原作で3、4日使ってるエピソードを1シーンにまとめるなどしていて、映画で見ていてあまり違和感もなく見れたのでこのあたりは巧かった。ただ逆に、印象に残っている「ハイエナ?が車に轢かれそうになって『死ね』とか悪態ついてる回」とか「ワニが警備員に挨拶を無視されてちょっとギリっときてる回」とかそういうのはカットされていた。

 

だけど短い映画の中で時間稼ぎをする

全体的には時間稼ぎの間(会話の間ではなく、TV版エヴァのような明らかな尺稼ぎレベルの間)やシーンが見られ、60分の映画なのにこれだけ退屈なシーンがあるのか!とかなりの回数時計を見てしまった。具体的には映画オリジナルで格闘ゲームのゲーム画面シーンや映画を見に行ったその映画内映画のシーンがやたらと長く、しかも別に意味も無い、クオリティも低い、とドイヒーなものだった。あれはなんだったんだ。

63分にしたのは映画のフルプライスを取るための時間、というのをどこかで見たが(そういう決まりあるの?)作品のクオリティという意味ではいっそ45分くらいにしてしまったほうがいいと思う。

紙芝居だという批判もあったけど実際絵はあまり動かない。ただ、あの絵がディズニーやピクサーのようにヌルヌル動くともうギャグでしかないので動かなくていいのだと思う。手抜きといえば手抜きだが、この作品では必要十分で違和感は無かった。

 

映画オリジナルのカエルが怖いし、カエルを利用する皆が怖い

ワニが死んで100日後の映画オリジナルパートで、新キャラのカエルが出て既存キャラにウザ絡みをしてくる。観客もキャラクターもカエルうざいなーと思うのだけど、実はカエルもまた友人を失っていて、あるきっかけでそのことを思い出してネズミに泣きながら告白する。ネズミはこいつウゼーと思っていたがその話を聞き自分と同じなのだと気付く……みたいな流れなのだが、この映画の泣き所かもしれないし、ここで引いたらこの映画にはまったくハマれないだろうなという重要なポイントである。なお私は後者でした。

このあたりから、カエルが「ワニ2(ワニツー)」みたいなポジションになりつつあり、なんとなくカエルのシルエットがワニに似てるからワニに重ねたり、ワニのギャグやワニとやりとりした内容を今度はカエルに披露したり、「ワニが皆の心に生きている」みたいなことを表現したかったのかもしれないが、なんか猛烈に違和感があった。特にネズミが、カエルをワニの代替品、綾波よろしく代わりがいるもの的に見ていく感じで目線を送っていくのが怖かった。そしてそのことはもちろんカエルは気付いていない。性格もぜんぜん違うし仕草とかも似てるところなんか無いのだけど、あのメンバーの中に(ウザ絡みする性格であったとしても)よく知らないのに入っていくカエルがある意味で可哀想な感じがあった。あとヒヨコとニワトリどうなったよ??

 

足音がすごい

先にも書いたが、ヒタヒタヒタ……と歩く足音が「あっ裸足だ」と一瞬でわかるのがすごかった。だけど確か最後は靴の音だった気がする。ワニがいなくなったら皆靴を履くことを覚えたのか?? みたいな変なところが気になった。これから見に行く人は足音に注目(注耳?)してください。ああ、ワニだけ裸なのはもう無視することにしました。

 

最大の見所・エンドロール

100ワニ映画を見ていて唯一スゲー!って思ったのは、きくち先生直筆のスタッフロールだ。全員の名前をきくち先生独特のあのクセのある字で書かれている。書く方は相当大変だっただろう(きくちゆうきフォントとか出てないよね???)し、書いてもらったスタッフ各位も嬉しいのではないだろうか。あれは相当大変だと思うし最大の見所であると私は断言する。

 

おわりに

頑張って褒めたつもりだけど、やっぱり残念だけど作品自体のモロモロが映画のフォーマットには「足りない」と感じる。紙兎ロペのYouTube3分アニメやります!なら見る人もいるかもしれない(私は映画マナーのアレすら勘弁だけど)が、紙兎ロペの2時間映画やりますといったらまず誰も見に行かないのと同じである。分相応というものがあることをよく考えてほしい。朝のニュースのZIPあたりとコラボして100日間毎朝6:58くらいから毎日4コマ原作の1分アニメを流すみたいなスタイルのほうが良かったんじゃないかなー。

でもネットにおけるイジりどころがどうしても生まれがちな作品ではあるけど、同時に決して悪い作品ではないと改めて思った。私も40年後には死ぬオジサンということを改めて思い出しつつ時間を無駄にしないように生きていきます。ありがとうございました。