光景ワレズANNEX

赤いソファを知ってるか 青いソファを知ってるか

タワマン購入をマジで検討してみたら、強制的に人生について深く考えることができるライフハックになった。

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タワマンを検討する

タワーマンション。普通に買って普通に住んでる人もいるだろうし、投資や節税目的、あるいは愛人を住まわせるために買った人もいるかもしれない。反対に、あんなものは人が住むものじゃない、成金の虚栄心を満たすだけでまともな人間が買うものじゃない、くらいに思っている人もいるかもしれない。駅前の味のある商店街がブッ潰されてデデーンと建ったそれを苦々しく見上げる街歩きクラスターもいるかもしれない(でも古い店の土地を明け渡した地権者はホクホク顔でそこの部屋を貰って住んでいるかもしれない)。タワマンに抱く感情は様々だ。でも、何せ目立つので無視できない。そういうツイッタラーいるよね。でもタワマンはブロックできないし。

 

マンションを買うなどという行為は自分にとってはずっと縁の無い世界かと思っていたが、ここ数年の自分の家族構成の変化や、チラチラと小耳に挟む「買った方が得」説、更に自分の会社の同期や後輩までも実際に買ったりしたという話を聞いたりしていると、検討すらしないで賃貸で終わっていいのか?という焦りが生まれてくる。周りに流されるのも主体性が無くて情けないが、周りのことを何も聞き入れないのもまた愚かだ。

 

なのでインターネット利用の大原則「半年ROM」をマンション購入のマニア系ブログ(そういう人たちもいるのです)、販売特設サイト、SUUMOなどの販売サイト、口コミサイトなどなどで行い、その諸情報を吸収してきた。おかげで広告バナーはすべてマンションがらみのものになり不快な虐待系マンガのバナーは表示されなくなった。

 

一切興味のなかったことでも自分ゴトになると割と勉強する気も起きるものだ。以前は「坪単価○万円」という表現でその物件が高いのか安いのか?もわからなかったが、今は首都圏近郊であればそれなりの相場感覚も身についてきた。

とはいえ、実際のところはボンヤリと「買ったほうがいいかな」「新築は勿論イイけど、買った瞬間に値下がりするというしな」「中古で築30年ってこれから一体どうなるんだ」「結局賃貸でよくね?」「オリンピック、災害、相場暴落、離婚、死……」と色々な思考と脳内議論を繰り返しては結論が出ないという日々を過ごしている。脳内の常駐プロセスがひとつ増えて数%のCPU使用率を食っているような居心地の悪さだ。

 

今(2018年1Q時点)は新築マンション相場は高め、中古もまたつられて高め、だと一般的に言われている。実際定期的にウォッチしている物件でも、同じ間取りで(階違いだが)2年前には4980万円だったのに最近7000万円で売っている。そういう割とめちゃくちゃな世界なのであり、こういうファクターひとつとっても「高値掴みはいやだ」「欲しいときが買い時では?」の脳内の二人の自分(天使の格好のぼくと悪魔の格好のぼく)が議論を交わし、そして結論が出ないのであった。


その他にも、資産価値の面(別に買ったからといって一生住む必要はなく、売ったときの価値次第では逆に儲かることもある)で駅近が正義かバス乗ってもいいか、東京の西側が高いが東側でもいいか、タワーか低層系か、○万円のローン組んでぼくは死なないのか、逆に思いっきり安いところに行って十分な可処分所得を確保すべきでは、などなど検討の材料は尽きない。未来のことは誰にもわからない、ということだけはわかっているのであまり意味の無い脳の活動だ。「賃貸か購入かどちらが正解か」の結論は結局「人による」でしかないので、たまに「嫌いな食べ物が○○」と言った人にやたら「えーもったいない、絶対おいしい、××で出してる○○なら絶対食える、人生損してる」とか突っかかってるバカがいるが、お前は逆に「好きな食べ物はくさやのシュールストレミング煮込み」と誰かに言われたら受け入れて食うのか。おい食うのかオラ。というくらい「人による」ものは「人による」のである。

 

ところで人は、その事実がわかりきっていることでもなんとなく想像が及ばないことがあると思う。自分の死など典型で、人は絶対死ぬのだが、おそらく死期がハッキリしてこないと実感もないし、今自分の死を考えてもどこか他人事だ。
ぼくは旅行のとき、旅先の調査を当日そこに行きながらするのが常なのだが、これも旅行の1ヶ月前に何か下調べをする気になれないからだ(だから行った後で「ここにも寄っときゃ良かった~」と後悔する)。自分の未来にほぼ確実に訪れるであろう大型イベントも本当に自分のことにならないと真剣になれない。
家を買うということがぼくにとってまさにそうで、ずっと自分のことにできなかった。しかしいよいよ「買う確率ゼロパーセントでもないかな」な新築タワマンがあったので実際に行ってみることにした。何より、自分にとって理解ができていなくても世間では割と買ってる人がいるってことがまず気になりませんか。

 

 

タワマンに行ったことがある

タワマンというものの門をくぐった経験は2回だけあるので空想で言っているのでもない。
1回はマジの金持ち、医者と弁護士の夫婦のお宅を訪問させていただいた。都内湾岸地域で豪華な受付のあるエントランス、ホテルっぽい内廊下に、窓からの景色は地上40階オーバー、あれこそ異次元の住まいだ。凄すぎてついついここの住人たちの不幸を願ってしまうのが自分の悪い癖だ(ただしその招待してくれた人たちは幸せになってほしい)。
もう1回は会社の同期がタワマンに住んだとき(今は引越し済)に招待してもらった。多分タワマンに住むと招待したくて招待したくて仕方がなくなるのはわかった。1LDKで少々狭めのようだったが内部の設備的には充分豪華なもので、狭さに妥協して豪華な家に住むという選択肢もあるのだなあと思ったものだ。でも1LDKだとSEX大変だねと冗談で言ったら「寝てる子供の隣でしてる」と言っていた。それはやめなさい。(でも彼はこの部屋で二人目をつくって引越した)

 

 

タワマンのモデルルームに行った

そんなタワマンの様子をまた見たいなと思いながら現地に行ってみると、まずそのタワマン、実際には存在しなかった。
別に詐欺ではなく、「これから建てま~す」の状態で、まだ地面をアレコレしてる段階だった。後で聞いたら引き渡しは2年後だった。この辺サイトで確認すりゃ良かった。

一生で一番大きい買い物と言われる家だが、このように新築マンションの場合「実物を見ないどころか、存在すらしないものを買う」のが常態化しているという世界なのである。注文住宅などもそうかもしれないけれど、1000円の本買うのだって実物見たいのに数千万のものをパンフレットとCGだけでみんな買うんですよ。すごいね。

 

モデルルームを予約していたので現物は無いが一応話を一通り聞くことになる。モデルルームというかマンションギャラリーなるものに入ったのは初めてだったが、まず、アロマのいい匂いがする。これでポワーンとさせる作戦のようだ。ノセられないぞ、と気合いを入れ直した。案内係の女性たちは皆30~40代くらいで、ここは若くてエロいとかえって信頼できないという点への配慮だと思われた。託児ルームもあり商談中子供を預けることもできる。暇そうな保育士が控えていた。あの仕事やりてえ。息子を連れていたのであそこで遊ぶかと聞いたらお父さんと一緒に来る、と言ったので説明や商談含め息子も同席させた。「新築物件の価格には初期販売コストが乗っている」というのは当然のことだが、こうして売るための建物自体を作ってしまうほどのコストがかかっているというのもエラい話だ。

 

商談ルーム的なところにはテーブルが20近くあり、大規模物件とはいえそれだけ検討する人が同時に来ることもあり得るのか……と違う世界を垣間見た気分になった。ここで商談されるのは数千万~億の買い物ですよ?そんなに数千万出せる人っているんだ…と感心する。別のテーブルには、セカンドバッグを持って高そうな時計をしてデカい馬が書いてあるポロシャツを着て、多分脱いだら金のネックレスをしてそうなツーブロックゴリラみたいなオッサンが子供連れて商談をしていた。販売員には当然のようにタメ口。ああそうそう、こういう層だよなタワマンって、と妙に納得した。多分クルマはアウディBMW、月に2回はゴルフに行くのだろう。

 

自分もカルテ的なものに年収含めた個人情報を記入し(年収を書かされるシーンはいつもちょっとだけ見栄を張りたくなる。意味ないのに)、終わる頃に丁度担当の男性が来た。この辺の応対のスムーズさやホスピタリティに関しては流石にお高いモノを売っているだけあってしっかりしている。過去何度か賃貸物件探しでお世話になっているオッサンがいるのだが、彼などまずホームページに載せた最も重要な情報であるところの賃料から間違え、次に部屋の広さを間違え設備仕様を間違え、そのくせ「早く決めないと他に取られますよ」「既に問合せが殺到しているのですぐに決めたほうがいいですよ」と見え見えの嘘をつき、「物件は出会いとご縁のタマモノです」とスピリチュアルめいたことを言い、それでいて仲介手数料と振込期日は1ミリも間違えない。そのオッサンと比較するととてもよくデキた感じのベテランの男性だったので、言いくるめられないよう心の中の防護壁を一段強化した。結論から言うとその男性もそれほど強く物件を勧めてくることもなく、多分逆にこちらがまだ購入意思が低そうというのを見極めてそれなりの温度感にしていたのだろう、不愉快な思いをすることは無かった。

 

物件の概要説明を受けた後、シアタールームに通された。そこではミニシアター並の大型スクリーンでマンションのプロモーションビデオを見るのだ。この映像を貼ったらもしかしたらぼくは映画泥棒として10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、またはその両方が科せられる可能性があるので貼れないが、荘厳なCGとBGMとで演出されており、このマンションを買ったら地球の危機が救われるのではないかと思わせるほどのハリウッド映画のCMみたいなデキであった。販売サイトのポエムなども面白いがこういう外にでない映像作品もまとめてみたら絶対面白くてきっとネットでもウケると思うし、少なくともぼくは爆笑した(他の客がいなかったので)。息子は「こわい」と言っていた。その後模型コーナーで物件の完成イメージを説明され、その眺望もこれまたCGとドローン撮影の風景で紹介された。更に後で5階高さがあがるごとの風景写真を見せてもらい、目障りな建物がどう見えるかというのを視覚的に説明された。ところで一日中そんな外眺めますかね。今住んでる家は6階で窓の前は風景が抜けているのでスカイツリーも東京タワーも見えるけどそんなに眺めないよ。忙しいし。

 

実際の部屋の再現セットも見た。広さや設備のイメージはついたが、風景は書き割りだし、当然タワマン共用部などのモデルは無い。内装は結局どこまで行っても金をかけるかどうか次第で変わるだけなので「ふーん良いね新しい水回りって……」くらいだった。そりゃ良いに越したことは無いけど、なんだか当たり前のものを当たり前に見せられた感じである。

 

最後に価格表を提示された。これがネットに出ないから来たようなものである。販売中の部屋の価格は、35年ローン組んで頭金○万円として……などなどで今の家賃と比較してどうか的な計算を脳内で行う。アラフォーで35年ローンが組めるというのがこれまたそもそもパンピーからすると異常な感覚だが、当たり前のことらしい。みんな本当にアタマ大丈夫なのかマジでと思ったりするが、死ぬまで住むのではなく売ったり貸したりという選択肢もある中で、というのもあって定年後でもローンが残ってもいいらしい。確かに売ればいいけど売るには買い手が必要なのでそこまで本当に考えているのだろうか……ソフマップに中古スマホ売るのとはワケが違うのに。

 

そういう情報を整理していると、頭の中では諸問題の原点に立ち返り、なんで家を買おうとしているのか? どこに住みたいのか? なぜそこに住みたいのか? 家ありきで住む街を決めていいのか? 買った後の子供の教育環境は? ローンこの金額で大丈夫? そもそも今の家で不満がないか? 別の物件が無いか? 賃貸でもいいか? 本当に今買って良いのか? などなどが浮かぶ。
個別に語り出すとキリがないのだが、この「家を買う」を意識してみるというのは、ものすごく自問自答に繋がることがわかった。自分の今後の人生について深く考え、子供の成長、巣立ち、自分の死までのヴィジョンが今までよりも明確に見えた。そのきっかけには良いかもしれないと思った。が、結局買うかどうかとしては……多分無いです。でも「こういうものか」というのが面白かったのでもう何物件か回って、あとでまとめてどこかで所感を発表するかもしれません。(需要があれば)

 

 

(おわり)